1. 導入
行政書士の仕事は「書類を作る仕事」と説明されることが多くあります。
しかし、なぜ日本では書類がこれほど重視されるようになったのか、という点はあまり意識されていません。
行政書士制度の起点を理解するには、日本社会が「口頭中心」から「記録中心」へと移行していった過程を整理する必要があります。
2. そもそも「口頭社会」とは何か
口頭社会とは、約束や判断、命令が主に言葉によって伝えられ、記録が必須ではなかった社会の状態を指します。
人の数が少なく、関係性が固定的であれば、記憶と慣習によって社会は成り立ちます。
この段階では、書類は補助的な存在であり、制度の中心ではありませんでした。
3. なぜ記録が必要になったのか
社会が拡大し、人の移動や役割分担が増えると、口頭だけでは判断の基準が揺らぎます。
誰が何を認め、どのような条件で許されたのかを、後から確認できる仕組みが必要になります。
このとき登場したのが、記録としての文書です。
文書は、人の記憶に依存しない形で、判断や事実を固定する役割を持ちます。
4. 行政書士が関わる領域の原型
行政書士の業務は、制度上は近代以降に整備されたものです。
ただし、その原型となる考え方は、記録をもとに行政判断を行う仕組みが生まれた時点ですでに存在していました。
「事実を整理し、一定の形式にまとめ、他者が理解できる形にする」という作業は、行政書士業務の中核にあたります。
5. 行政書士が関われない範囲との分岐
記録社会においても、すべてが文書で決まるわけではありません。
最終的な判断や評価、争いの解決は、別の制度や専門職に委ねられてきました。
行政書士が扱うのは、判断の前提となる事実や手続の整理であり、結論そのものではありません。
この役割分担は、制度の起点段階から一貫しています。
6. 現行制度とのつながり
現在の制度では、行政手続の多くが書面や電子データを前提としています。
近年はデジタル化が進み、記録の形式は変化していますが、「記録によって判断を安定させる」という考え方自体は変わっていません。
行政書士の業務も、この延長線上に位置づけられます。
7. まとめ
行政書士制度の起点は、資格制度の誕生そのものではありません。
日本社会が、口頭中心の仕組みから、記録を基礎とする仕組みへと移行した過程にあります。
書類は単なる形式ではなく、社会を安定させるための装置として機能してきました。
この視点を踏まえることで、行政書士の役割は、より構造的に理解できるようになります。


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