行政書士の日本史〜資格制度以前の実務者〜代書人・代願人という存在

行政書士の日本史

導入

現在の行政書士制度は、国家資格として明確に定義されている。
一方で、「資格制度ができる前は、誰が書類を作っていたのか」という疑問を持つ人は少なくない。
役所に提出する文書が必要であった以上、その作成や手続きを担う人が存在しなかったはずはない。
その代表的な存在が、代書人や代願人と呼ばれていた人々である。

そもそも代書人・代願人とは何か

代書人とは、本人に代わって文書を書くことを生業とした人を指す。
代願人とは、本人に代わって役所へ願い出る行為を担った人を指す。
いずれも、現在でいう「書類作成」や「申請の補助」に近い役割を果たしていた。

近代以前から近代初期にかけて、文字の読み書きや役所の作法に精通した人は限られていた。
そのため、一般の人が自力で正式な文書を整え、役所に提出することは容易ではなかった。
そこで、文書作成や手続の作法を知る人が、実務者として介在する余地が生まれた。

なぜ分かりにくく感じるのか

代書人・代願人は、統一的な制度や資格に基づく存在ではなかった。
地域ごと、時代ごとに呼び方や立場が異なり、業務範囲も一定ではなかった。
公的に身分が定義されていた場合もあれば、事実上の慣行として活動していた場合もある。

また、現代の資格制度を前提にすると、「無資格で業務をしていた人」という誤解が生じやすい。
しかし当時は、そもそも現在のような資格制度が存在していなかった。
代書人・代願人は、制度の外側にいたのではなく、制度が未整備な時代に必要とされた実務者であった。

行政書士が関われる範囲との関係

現在の行政書士は、法令に基づいて業務範囲が定められている。
官公署に提出する書類の作成や、その相談が主な役割である。
この点において、代書人・代願人が担っていた実務の一部は、現代の行政書士業務と連続性を持つ。

ただし、行政書士は制度として位置づけられ、業務内容や責任の範囲が明確化されている。
個人の経験や慣行に依存していた代書人・代願人とは、立場の安定性と公的性格が大きく異なる。

行政書士が関われない/注意が必要な範囲

代書人・代願人の活動には、文書作成以外の行為が含まれる場合もあった。
交渉や判断を伴う行為、紛争性のある案件などは、現行制度では他士業の領域となる。
行政書士が同様の行為を行うことはできない。

また、歴史的な代書人・代願人の役割を、そのまま現代に当てはめることはできない。
制度が整備された現在では、業務の線引きが重視されている点に注意が必要である。

現行制度・最近の改正で注意すべき点

現行制度では、行政書士の業務範囲は法令によって整理されている。
近年も、業務内容の明確化や他士業との関係整理が進められている。
これにより、「書類を代わりに書く」という行為が誰に許されるのかは、以前より明確になっている。

資格制度以前の実務者と同じ感覚で業務を行うことは、現在では許されない。
歴史的背景と現行制度は、切り分けて理解する必要がある。

まとめ

代書人・代願人は、資格制度が存在しなかった時代に、社会の要請によって生まれた実務者であった。
彼らの存在は、文書と手続が社会にとって不可欠であったことを示している。

当時の雰囲気を具体的に思い浮かべる手がかりとして、桂春團治の落語「代書屋」を挙げることができる。
そこに描かれる代書人の姿は、制度以前の実務者が、どのように人々と役所の間に立っていたのかを直感的に理解する助けとなる。

現在の行政書士制度は、こうした実務の積み重ねを前提に、制度として再構成されたものと捉えることができる。
資格制度以前の実務者を知ることは、行政書士という制度の位置づけを理解する一助となり、制度が時代とともに形を変えてきた事実も自然に見えてくる。

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